化学分野の特許出願のクレームの補正について(3)マーカッシュ形式等の択一形式のクレームについてする補正の場合

1. マーカッシュ形式のクレームとは

マーカッシュ形式のクレームとは、複数の化学構造を包括的に記載し、択一的に保護範囲を主張するための請求項の記載形式です。例えば、以下のように一般式を用いて記載されることがあります。

例1:

R1-X-R2(ただし、R1はH、CH3、C2H5のいずれかであり、XはOまたはS、R2はCl、Br、またはIである。)

例2:

Ar-Y-Z(ただし、Arはフェニル基またはナフチル基、YはNHまたはO、Zはアルキル基またはハロゲン原子である。)

例3:

R3-COO-R4(ただし、R3はカルボキシル基、スルホン基、またはホスホン基からなる群より選ばれる基であり、R4はアルキル基またはアリール基である。

1. マーカッシュ形式のクレームの補正要件

マーカッシュ形式等の択一形式で記載された請求項において、一部の選択肢を削除する補正は、残った発明特定事項で特定されるものが新たな技術的事項を導入しない場合に限り許容されます。

2. 補正が許容されない場合

当初明細書等に化学物質が多数の選択肢群の組合せの形で記載されている場合、以下の(i)または(ii)の補正により追加または残された特定の選択肢の組合せが、新たな技術的事項を導入すると認められることがあります。

(i) 当初明細書等に記載された多数の選択肢の範囲で特定の選択肢の組合せを請求項に追加する補正

(ii) 選択肢を削除した結果として特定の選択肢の組合せが請求項に残る補正

例えば、補正の結果、出願当初に複数の選択肢を有していた置換基について、選択肢が唯一となり選択の余地がなくなる場合、その特定の選択肢の組合せを採用することが当初明細書等に記載されていない限り、補正は許されません。なぜなら、当初の記載は特定の選択肢を唯一のものとして採用することを意味していたとは認められないからです。

3. 許容される場合

一方、選択肢の削除が実施例の記載を伴う選択肢が残るようになされる場合、その補正が新たな技術的事項を導入しないと認められることがあります。

例えば、当初明細書等に複数の選択肢を有する置換基の組合せの形で化学物質群が記載されている場合、当初明細書等の実施例で記載されていた「単一の化学物質」に対応する特定の選択肢の組合せのみを請求項に残す補正は許されます。

まとめ

マーカッシュ形式の請求項の補正においては、削除後に残る発明特定事項が新たな技術的事項を導入しないことが重要です。特に、削除によって特定の選択肢の組合せが当初明細書に記載されていないものとなる場合、補正は許容されません。一方、実施例などで具体的に支持されている選択肢のみを残す補正は許容される可能性があります。