化学分野の特許出願のクレームの補正について(2)除くクレームとする補正の場合

1. 除くクレームとは

「除くクレーム」とは、請求項に記載した事項の記載表現を残したまま、請求項に係る発明に包含される一部の事項のみを除外することを明示した請求項を指します。この補正は、除外後の請求項が新たな技術的事項を導入しない場合に限り許されます。

以下の(i)および(ii)の「除くクレーム」とする補正は、新たな技術的事項を導入しないと判断されるため、許容されます。

2. 許容される「除くクレーム」の例

(i) 新規性等を否定する引用発明との重なりを除く補正

請求項に係る発明が、引用発明と重なることで新規性(特許法第29条第1項第3号)や先願(特許法第39条)による拒絶理由を受ける可能性がある場合、その重なりを除外する補正が可能です。この「除くクレーム」は、引用発明に記載された特定の事項のみを除外するものです。

この補正により、補正前の明細書から導かれる技術的事項に変更が生じることはないため、新たな技術的事項を導入しないと判断されます。

例:

補正前の請求項:
陽イオンとしてNaイオンを含有する無機塩を主成分とする鉄板洗浄剤。

引用発明:
陰イオンとしてCO3イオンを含有する無機塩を主成分とする鉄板洗浄剤。

補正後の請求項:
陽イオンとしてNaイオンを含有する無機塩(ただし、陰イオンがCO3イオンの場合を除く。)を主成分とする鉄板洗浄剤。

この補正は、引用発明と重なる部分を除外するものであり、補正前の技術的事項を変えるものではないため、許容されます。

(ii) 「ヒト」を除く補正

請求項に係る発明が「ヒト」を包含していることで、特許法第29条第1項柱書の要件を満たさない、または第32条に規定される不特許事由に該当する場合、「ヒト」のみを除外する補正が許されます。

この補正によって、技術的事項が変更されるわけではないため、新たな技術的事項を導入しないと判断されます。

補正前の請求項:
配列番号1で表されるDNA配列からなるポリヌクレオチドが体細胞染色体中に導入され、かつ該ポリヌクレオチドが体細胞中で発現している哺乳動物。

この場合、「哺乳動物」にはヒトが含まれるため、第32条違反に該当する可能性があります。

補正後の請求項:
配列番号1で表されるDNA配列からなるポリヌクレオチドが体細胞染色体中に導入され、かつ該ポリヌクレオチドが体細胞中で発現している非ヒト哺乳動物

この補正により、「ヒト」を除外することで特許法第32条に違反しない発明となるため、許容されます。

まとめ

「除くクレーム」とする補正は、新たな技術的事項を導入しないことが前提となります。特に、引用発明との重なりを回避する場合や、特許法の要件を満たすために必要な場合には許容される可能性が高いです。ただし、請求項に記載する「除く」部分が発明の主要部分を占める場合や、多数にわたる場合には、請求項が不明確となる可能性があるため注意が必要です。

次回のコラムでは、さらに別の補正のケースについて解説します。