化学分野の特許出願のクレームの補正について(1)数値限定を追加又は変更する補正の場合
特許出願において、クレームの補正は慎重に行う必要があります。特に、数値限定を追加または変更する場合には、新たな技術的事項を導入しないよう注意しなければなりません。化学分野における数値限定の補正の可否について解説します。
1. 数値限定を追加する補正
数値限定を追加する補正は、その追加が新たな技術的事項を導入しない場合に限り許されます。例えば、明細書の発明の詳細な説明に「望ましくは24~25℃」と明示的に記載されている場合、その数値範囲を請求項に追加する補正は許容されます。
また、仮に24℃と25℃の実施例が明細書に記載されていたとしても、それだけでは直ちに「24~25℃」の数値範囲を追加する補正が許容されるわけではありません。しかし、当初明細書等の記載全体を考慮し、24~25℃という特定の範囲についての言及があったと認められる場合には、補正が許される可能性があります。
例えば、24℃および25℃が発明の課題解決や効果に関連する記載の中で、ある連続的な数値範囲の上限または下限として記載されている場合、その数値範囲が当初から明細書内で認識されていたと評価できます。このような場合、新たな技術的事項を導入しないと判断されるため、補正が認められます。
2. 数値範囲の境界値を変更する補正
請求項に記載された数値範囲の上限や下限の境界値を変更する補正については、以下の(i)および(ii)の両方を満たす場合に限り、新たな技術的事項を導入しないとされ、許容されます。
(i) 新たな数値範囲の境界値が当初明細書等に記載されていること
境界値として追加または変更する数値が、当初の明細書等に明示的または暗示的に記載されている必要があります。明細書内で示されたデータや実施例を根拠として、新たな境界値が当初から支持されていたと認められることが重要です。
(ii) 新たな数値範囲が当初明細書等に記載された数値範囲に含まれていること
変更後の数値範囲が、当初の明細書等で開示された数値範囲の一部である場合には、新たな技術的事項を導入しないと認められます。例えば、当初明細書に「20~30℃」の範囲が記載されており、請求項の「22~28℃」という範囲を「23~27℃」に変更する場合、変更後の範囲が当初の数値範囲内に含まれているため、補正が認められる可能性があります。
まとめ
化学分野の特許出願における数値限定の補正は、厳格に判断されるため、補正が許される条件を十分に理解することが重要です。数値限定の追加や変更を行う際には、当初明細書等の記載を根拠に、新たな技術的事項を導入しないよう注意しながら、適切な補正を行う必要があります。